祖母の本

 昨日、実家から「書籍」が届いていた。見ると、明治生まれの祖母が若い頃使っていたピアノ教本だった。「世界音楽全集」30数巻あるうちの4冊。先日帰省した長女が頼んでおいたらしい。昭和7年前後のもので、非売品とあるが、中に4ページの薄いちらしのようなものが入っていて、そこに

 

 会費は毎月並製分 1円80銭、特製分2円です。送料は14銭です。
 申し込み順により毎月1回1冊づゝ配本致します。

と書いてあった。

 生きていれば96,7歳になる祖母の20代の教師時代のもの。30代半ばで病で亡くなり、私は祖父から聞いた祖母の姿しか知らない。「町に1台しかないピアノを弾いた」というのが祖父の自慢だった。その自慢話のあと私の方を向きながら軽いため息をついくのが常だった。子ども心に祖母にはかなわないと思い、小学生の子どもを残してこの世を去らなければならなかった祖母の無念さに思いを馳せた。
 音楽的能力は、娘である私の母や孫である私には全くと言って受けつがれなかったものの、ひ孫である私の娘2人にかろうじて受け継がれたらしい。教本を祖父の書斎で見つけ、自分の弾いている曲が載っている本を選び、それが送られてきた本ということである。
 中に挟みこまれた薄い冊子を読みながら、こうして祖母の思いを何とか受け継ぐことができ、40年かかって宿題をやり終えたようで感慨深い日になった。